地方創生が第1期の5年を終え、まもなく第2期の5年が始まるにあたり、「若手人材確保」と「Society 5.0」の関係を冷静になって考え直す必要があるのではないかと思っている。その核心は、地方が「Society 2.0 を卒業する」ことだ。
はじめに、Society 1.0 から 5.0
の用語を確認しておこう。1.0は狩猟採集社会で、日本では縄文時代が該当する。同様に、2.0は農業社会で、弥生~江戸時代。3.0は工業社会で明治~昭和、4.0は情報(インターネット)社会で、概ね平成時代以後。そして5.0は令和には訪れるかもしれない時代だ。ここで重要なのは、各々の社会において「次世代の育成や確保」の最適解が異なる点だ。
Society 2.0 では、先祖伝来の田畑を技法とともに継承することが求められるが、そこに個性や抜きん出た才能は必要とされない。
Society 3.0
は、規格品を大量生産することによって、個人も会社も国も豊かになれる社会であり、人材も「規格品を大量生産」するのが合理的だった。個人の興味関心やこだわりは封印し、与えられた学習課題を「忍耐力を発揮し」「努力して」「速く正確に」習得するが求められた時代であり、今日、大人から子供まで、この学習観が染みついている。
Society 4.0
は、インターネットによって知識のもつ価値が瞬く間に賞味期限を迎えることから、新しい知識・知恵・価値を常に生み出し続けることが求められる社会だ。そして、この時代に必要とされるのは“三人寄れば文殊の知恵”に加われる、徹底的に突き抜けた人材だ。それには、一人ひとりの興味関心、いや、パッション(情熱)に基づき、一人ひとりに適合した学びが必要とされる。
そして Society 5.0 は「AIが苦手とし、人間が得意とする力」すなわち「感じる・問いを立てる・意味を味わう」力を発揮することが求められる。具体的には、自問自答‥探究する態度や能力だ。
以上をふまえて、地方における若年人口の出入りに関する変遷を概観していこう。Society 3.0 の時代には、地方の人余り感と都会の人手不足感によって、地方から都会への人材移転が進行した。その後、この仕組みが強力に稼働したまま、Society
3.0は終息し、Society 4.0 に移行。地方では昔年に比べて出生数が大幅に減少しているにも関わらず、若者の流出は従来通りに進行。「地方創生」によって初めて現実を自覚した、というのが今日までの流れだろう。
問題はここからだ。今後を考える上で決して忘れてならないのは、Society 2.0 的な地域風土が色濃く残る地方社会も、厳然として Society 4.0 に組み込まれており、人材の育成や確保も、少なくとも Society 4.0 に合わせて進める必要が高い点だ。
ここで、この視点から、地方の人々が持っている感覚を見直してみよう。地方には「若者を地域の外に出すな」「郷土愛を植え付けよう」と語る人々が少なくないが、これはまさに「Society
2.0」の発想だといえよう。地元で伝承されてきた、ある意味、誰でも習得できる程度の考え方や技法だけでは、地方社会が立ちゆかない現実を直視する必要がある。もし「Society 2.0」のまま行きたければ、地域外との物流や情報を直ちに遮断するほかない。
では「地元回帰」という考え方はどうか。もしそれが「人は皆、生まれ育った地に戻ってくる必要がある」という認識に基づくものならば、まだまだ「Society 2.0」に支配されていると見るべきだろう。
Society 4.0
では、一人ひとりが突き抜け、固有の才能を周囲との協働によって最大限に発揮することが求められる。その際、最も活躍できるフィールドは本人が生まれ育った地であるとは限らない。すなわち、個々の幸福という観点に立つと、自分の才能を最大限に発揮できる地こそが最適であり、地元回帰は必ずしも最適解とはいえないのだ。他方、今その地域に必要な才能を備えた人材は、その地域の出身者であるとは限らない。つまり「郷土愛・地元回帰」を迫るのは、地域にとっても最適解とは限らない訳だ。
以上より、Society 4.0
の時代、本人のためにも地域のためにも最適なのは、一人ひとりの才能を最大限に開花させ、人材の広域的な流動性を高める方向性である、ということができる。そして高校教育も、たとえ統廃合が懸念される過疎地の小規模校であっても、いたずらに「地元のため」に走るのではなく、学習指導要領が指し示しているとおり「世界のどこに行っても活躍できるよう能力を高める」ことを大切にしていくことが重要だといえよう。
ここで改めて、地方において、元気をます地域、元気を失う地域を見比べてみると、前者は人材の広域的な流動性を大切にし、後者は否定している様子が分かるであろう。
この内容は同日「大正大学地域構想研究所」のメールマガジンでも配信され、研究所のホームページにも掲載されています。