3月も下旬となり、ネット上の資料や全国各地の関係者から「高校教職員の定期人事異動」に関する情報が続々と伝わってくるようになりました。
現任校で校長として探究や地域協働を推し進めた実績を評価され、県教委の要職へ栄転された方。かつて教頭時代に礎を築かれ、校長としてカムバックされた方。現在進行中の事業を成就させるには不可欠な先生方が「確率的には考えられない形」で揃って残留した学校‥。こうした人事によって、該当の県や高校で改革がさらに力強く進展していく近未来を、鮮明にイメージできます。
それは、全国高校生マイプロジェクト・アワード(マイプロ)で入賞するような「主体性・協働性・探究性」に富む若者が組織的・計画的に育成され、毎年、数十~百名超の規模で卒業し、相当な比率で地元に回帰する可能性が高いことを意味します。
これは明らかに「県や高校の未来を開く人事」といえます。こうした県が全てなら日本は均衡的に再生を遂げていくのでしょうが、残念ながら、その対極ともいうべき人事を前例踏襲的に続けているやに見受けられる県もあります。
学校や地域の未来も想い、逆風の中、有志で結束して粘り強く事を進めてきたのに、「これから!という局面で、何本もの若木を根こそぎ抜き倒す」人事に遭った先生方。‥世間的には栄転なのかもしれませんが、事情を知る者からみると、該当校や通学圏の自治体、さらには県の将来を奪っている人事であることが見えていない例ですね。
もっとスゴイ例もあります。
県都から遠く離れた高校において(教科指導のほか)探究や地域協働の面でも実績を収めた先生。人事面談の際に「探究に力を入れていける高校」を希望したところ、異動先として内示があったのは「地区内で最大規模の普通科校」。この県では、他にも同様の人事が‥。
未だこの県は、こうした経験や実力をもつ先生方にモデルを確立してもらわなければならない段階。なのに、送られた先は「最も動きにくい環境」。これは、探究や地域協働のリアルを熟知する者にとっては、不思議を超えて、懲罰的とも映る人事です。
しかし間もなく、その県にとっては「最大限に優遇された人事」だったのだと気づきました。
探究が成立するかどうかは、進学校か進路多様校かは全く関係ありません。探究性が偏差値と無関係であることは「マイプロ」で入賞する高校生の在籍校をみれば明白です。
むしろ、地域との距離が近く、機動性も発揮できる「過疎地の小規模校」の方が有利なほど。都市部の進学校は「危機感が薄く、価値観も旧く、高校も行政も組織が大きくて身動きがとれない」傾向が強いですから。
リアルを熟知する者は、こうした認識を普通にもっているはずです。
ところが、ふと、その県が「探究のモデル校」に指定している高校を思い出して、合点がいきました。その多くは「都市部に近く、規模も大きい進学校」。‥ そうです、県教委は“探究のできる高校”へ異動させてくれた訳です!
以上、定期人事異動によって、地域人材を育成できる意欲や力量の持ち主が「さらに影響力を発揮できるポスト」へ進める県もあれば、「飼い殺し」になる県もある訳です。
もっとも、ここで示したのは、あくまでも「一面的かつ個人的な評価」。それが「県それぞれに確かな考えがあって、互いに個性的で、力点の置き方が異なっているだけ」という実体の一面に過ぎず、トータルとしては「どの県に生まれても『教育の機会均等』が奪われることはない」のであれば、さしたる問題ではありません。
ここに示したことが、私の偏見に過ぎないことを祈りたいと思います。