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各道府県教育委員会は早急に高校再編計画の見直しを

はじめに

 「高校教育改革の推進」と「高校の統廃合」は、今日いずれも、高校をもつ教育委員会にとっては重要かつ喫緊の課題である。

 

 多くの読者にとって、両者は無関係に映るであろうが、実は密接にリンクしている。しかも、今回の改革に適した高校は「より周辺部の」「より小規模な学校」なのが特徴だ。ところが、大半の教育委員会は「過疎地の小規模校」を真っ先に統廃合する再編計画を策定してしまっている。

 

 本稿では、まず、高校教育改革を推進するためには「生徒を周辺部の小規模校に誘導」すべき必然性や必然性を明らかにする。その上で、昨今のコロナ情勢が改革の推進に絶好の追い風となっている構図を示し、コロナの影響を軽減する観点からも、高校再編計画を早急に見直すべき重要性について提言を行う。

都市部の大規模校を優先的に残そうとする理由

 高校の再編について議論する際、必ず「1校の適正規模」が言及される。そして、大半の場合「教育の質を維持するためには一定の規模が必要」と結論し、「各学年1~2クラスの小規模校は教育の質を保障できない」という理由によって「小規模校から順に統廃合を行う」方針を打ち立てている。

 

 では、その拠り所となっている高校像とは何なのだろうか? ‥ この問題を掘り下げていくと、「オンライン化していない」高校像が浮かび上がる。「生身の教師が」「1クラス40人の生徒集団に対して」「教室で」「講義を行っている」イメージだ。

 そこで、その必然性の在処について探ると、「インターネットのない時代に」「数少ない教師の」「目も声も届く範囲に」「最大限の生徒を集めた」のが「学校の教室」だった、という成立経緯に行き当たる。

 

 

 たしかに、この条件に基づけば、大規模校の方が優位といえる。例えば「化学」の精鋭教師がいた場合、大規模校なら「化学」に専念する形で生徒に専門性を還元できる。それに対して、小規模校では、「化学」で還元できる生徒が少数にとどまってしまうばかりか、必ずしも専門性が及ばない「物理」や「生物」まで担当しなくてはならないことも多い。

 

 「教科指導の安定性」も重要だ。「同一教科の教師が多数いた方が、切磋琢磨できるし、人事異動等による影響を最小限に抑制できる」という傾向だ。実際、小規模校では、専門家が1人しか配置されていないであろう「化学」の指導体制は、人事異動によって簡単にリセットされてしまう。資産が学校として継承されないのだ。この点でも、大規模校の方が優位だといえる訳だ。 

 

 これらのほか、これまでは考慮しなくても何とかなったことが 2つある。1つは、同僚や地域との丁寧な意思疎通。生徒を学校に囲い込んで受験勉強や部活動に向かわせていても、他教科を無視して自教科の受験指導だけを考えていても、それなりに回ってきた。もう一つは、機動的な対処。大規模校に入学するような生徒ならば、前年度と同じ指導を続けても適応可能だったし、部分的あるいは一時的にはともかく、学校全体の在り方を大規模に軌道修正すべき環境変化もなかった。

 

 高校再編にあたって「周辺部の小規模校を統廃合し、都市部の大規模校を存続しよう」とする考え方の土台には、以上のような事情がある。

 

周辺部の小規模校を統廃合してはいけない理由

 しかし、今回の高校教育改革がめざす世界を深く理解し、「オンライン化」の影響や可能性を適切に評価すると、結論は正反対になる。

 

 

 インターネットがあれば、原理的には「生徒は教師と同じ空間・同じ時間を共有する必要性」が低くなる。まず、スキルの高い教師が「数百~数千人の生徒に対して講義を届ける」ことが可能だ。また、生徒の多様性を考慮しても、何人かの教師で県全体をカバーできる。しかも、オンデマンドなら、任意の時間に学習に臨めるほか、再生速度の調整や停止、リピート等も可能だ。

 

 これは少なくとも「生徒40名が教師の都合に合わせて同時にパソコンの前に座る」あるいは「生徒40名ごとに教師がライブで一斉講義を行い、県全体では数十名以上の教師がカメラの前に立つ」よりは効率性が高い。

 

 また、各生徒が自分に合った解説を聞ける可能性を広げる点でも「該当クラスの在籍者40名で授業を受ける」スタイルは不合理であるといってよい。仮に県全体として該当教科に従来と同数の教師がいたとすれば、オンデマンドやライブで講義を務める以外の教師は、在籍するリアルな学校の生徒を中心にキメ細かいフォローをすればよい。

 

 以上、オンライン環境をフルに活かせば、(特に小規模校で顕在化しやすい)リアルな学校や教室ゆえの限界を克服できるほか、県全体として教師の人件費に対する効率や効果を向上することが可能になる。いや、それは既にN高校が相当のレベルまで実現している人材運用である。

 

 なお、オンライン化を本気で考えるべき必要性については、拙稿「長引く?臨時休校後を見据えたオンライン化を」も併せてご覧いただきたい。

 

 以上「小規模校がオンライン化によってデメリットを解消できる可能性」について述べてきたが、以下「リアルな小規模校でないと実現が困難な関わり」について言及する。

 

 平成の初期まで続いた工業社会では「与えられた仕事を従順に早くこなす」態度や能力が求められ、学校教育はそれに貢献してきた。しかし、インターネットの普及がもたらした情報社会では、それに代わって「新たな知恵を生み出す」態度や能力を高める教育が重要になった。

 

 それに必要なのが “三人寄れば文殊の知恵” であり、各生徒に「個性を徹底的に伸ばす」ことが求められる。当然「嫌なことをガマンして」では無理であり、各生徒の興味関心を軸に、諸科目の学びを組織化していくことが重要になる。(‥詳しくは、筆者の講演録 「高校×地域」でいま何が起きているのか(第2回SCHシンポジウム西日本)を参照)

 

 それには、各生徒の興味関心を、少なくとも関係する教職員が‥できれば地域の関係者も交えて‥各生徒に対して誰がどのような役割を演じればよいのか、共有することが重要になる。当然「丁寧な対話」は不可欠だ。また、一人ひとり「学びの形」が異なれば、演じるべき役割も異なるもの。こんなことを大規模校で達成するのは極めて困難であり、小規模校の方が有利なのは明らかであろう。

 

 

 さらに「生徒たちが今これに興味を抱いている」ことを察知した時、機動的に対処できれば、生徒の学習意欲を高め、当初計画では得られなかった成果を収めることができる。これもまた「都市部の大規模校」では困難であり、「過疎地の小規模校」に軍配が上がる。

 

 “規格品”としての価値を高めるために「嫌なことでもガマンして努力する」ことに意味があった時代には「大規模校のマス教育」が有効だったが、個性の徹底開花が求められる時代には、小規模校の方がはるかに適している訳だ。

 

 以上の議論をふまえて「過疎地の小規模校」についてSWOT分析を行うと、次のようになる。

 

コロナ問題でさらに重要性が高まった「過疎地の小規模校」

 

 過疎地の小規模校を大切にすべき重要性について、筆者は以前から繰り返し強調してきた。そしてその見解はNHK総合テレビでも報道された(2019.11.28)

 

 ところが、この見解はその後もなかなか浸透しなかった。その主因は「都市部の大規模校」を指向する価値観が、高校内部にも、保護者にも、社会にも、強く染みついていた点にある。それは「社会的で本質的な needs」と「個人的で表層的な wants」が乖離していたことを意味する。

 

 こうした状況を一変させつつあるのが、昨今のコロナ情勢だ。4月に入って国から緊急事態宣言が発出され、再び臨時休校が始まり、「感染拡大が終息するまでに数ヶ月~1年以上の月日を要するかもしれない」という予測が提示されるに至って、未だ一部だとはいえ、保護者の意識は大きく変わった。例えば、小学校に入学したばかりのお子さんをもつ同僚は、次のようなことを語っていた。

 

 「たしかに、机上の学習はオンラインでも代替可能かもしれない。しかし、屋外で思う存分に遊べず、人や社会とリアルに関われない日々が長期化すると、心や体の成長にとってはダメージが大きすぎる。我が子の将来を考えると、地方脱出も考えざるをえない」

 

 筆者もまた、オンライン化で全てを解決できるとは思っていない。他方、臨時休校前の形で学校を再開することも難しいし、好ましくないと考えている。そして、リアルとオンラインを適切な構成でハイブリッドにしていく必要性が高いという見解をもっている。

 

 ここで、学校を再開できるまでの日数は「都市部ほど長く、過疎地ほど短くて済む」であろう可能性が高い。となれば、より多くの高校生が「リアルとオンラインの最適なハイブリッド」を体験できるようにするには、質を担保した上で「都市部の中3生が地方の小規模校に進学する」のが合理的だといえる。

 

 それは、上記のような保護者の想いに応えうる道でもある。つまり、昨今のコロナ情勢によって「社会的で本質的な needs」と「個人的で表層的な wants」が一致する可能性が高まった訳だ。

 

 また、コロナ情勢は現に刻一刻と変化しており、教育委員会も各高校も、そのたびに大きな軌道修正を余儀なくされている。しかも、コロナの影響は都市部の方が大きい。こうした情勢下において、より機動的な対応をとれるのは、明らかに「過疎地の小規模校」といえる。

 

 以上より、地方の道府県教育委員会には、「自らの行政区域内において、高校生を『都市部の大規模校』から『周辺部の小規模校』に政策的に誘導する」ことが求められると同時に、「都市部の高校生を受け入れる」ことが期待される。

 

 そしてその一環として、これまで「都市部の大規模校」に手厚く配分されていた募集定員を、速やかに「周辺部の小規模校」へと優先配分することが期待される。

おわりに

 大局観が乏しいと、教育委員会も各高校も、コロナ情勢に翻弄されるだけで終わり、学校を改革する機会を失い、何より、目前の生徒たちが多大な損失を被ってしまう。対照的に、これまでに述べたような大局観を持っていれば、コロナ情勢を学校改革の追い風とすることができ、生徒が被る損失も緩和される。

 

 一つでも多くの道府県教育委員会等が確たる大局観をもち、速やかに高校再編計画の見直しに移ることを期待して、結びとしたい。